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A Bag of Hammers 人生の軛(くびき)

アメリカ映画 (2011)

TVと映画で大活躍のジェイソン・リッターと、それよりは劣るジェイク・サンドビグが変な2人組になり、そこに、ハリケーン被害のルイジアナ逃げてきたという触れ込みで家を借りに来た母子連れが絡む、あまり類を見ないタイプのコメディ映画。チャンドラー・カンタベリーが12歳の少年ケルシーを演じるが、エンドクレジットで3番目に名前が出てくるので、脇役ではなく準主役。映画の最初は、葬儀の際に車を盗むという詐欺の話かと間違えてしまい、次には、ケルシーが嫌いで、就職面接を何度受けても失敗する悪の權現の母親が登場するが、それも、映画の半ばで消える。そこからが、映画の本番。高校も卒業できなく、盗むことしか芸のない2人組が、1人取り残されたケルシーをどうするか? 普通なら、児童相談所が中に入るのだが、2人はそれをせずに直接ケルシーを家に住まわせる。しかし、巧くいくかに見えたこの不思議な関係は、2人のうちのアランの姉の通報により、もろくも崩れ去る。上映時間は85分。1時間半を切るので、かなり短く感じられる。観る価値は? チャンドラー・カンタベリーが重要な役で出演していて、日本で公開されなかったから、という程度。

映画は、ベンとアランが、レストランのボーイのような姿で墓地に立ち、駐車場まで持って行くという前提で車を預かり、それを盗難車の買取業者に持ち込み、換金する場面から始まる。アランには、ファーストフード店で働いている姉がいて、姉も2人の “商売” のことは知っているが、止めはしない。そんな時、2人の家のすぐ横にある2人の持ち屋に、母と子が引っ越してくる。母親は、巨大ハリケーンに襲われたルイジアナ州から逃げてきたので、職もないと言い、低い家賃で家を借りることに成功する。息子のケルシーは、母が、就職面接に行っている間、気楽に2人の家にやってくるが、うるさがられて追い払われる。そんな態度が変わるきっかけは、ケルシーが学校で虐められているのを見て、たまたま通りがかった2人が助けたこと。母が、冷淡で、ケルシーを全く顧みないので、ケルシーはついつい隣に足を運ぶ。2度目の訪問の時は、アランの姉のメラニーもいて、ケルシーの家まで一緒にソーダ缶を取りに行き、家の中が、“ケルシーが1人で冷凍食品を食べて暮らしている” と分かるほどひどい状態であることに気付く。そして、すぐに児童相談所に「育児放棄」を指摘する。連絡を受け、ケルシーの学校の教師が見に来ると、母もケルシーもおらず、ベンとアランが対応し、“火消し” にやっきになる。ケルシーが3度目にやってきた時、2人が車を盗んでいるのかと訊き、ドキっとしたベンは何とか言い訳を思いつくが、後でケルシーが誤魔化されていなかったことが分かる。一方、何度やっても就職面接に失敗した母は、所持金もなくなり、車にエンジンをかけたままガレージに閉じこもって自殺する。アランは、ケルシーが孤児として扱われるのが可哀相になり、警察には、1ヶ月前に引っ越してきた一人住まいの女性が自殺したと届け、ケルシーを自宅に引き取る。ベンは、数日のことかと思って協力していたが、“ずっと” だと分かると、アランと喧嘩別れし、家から飛び出て行く。しかし、1人では何もできないベンは、翌々日の朝、家に戻ってきて、家の前でずっと待っていたアランに歓迎される。それからのベンは、人が変わったように、ケルシーを養子のように扱うが、それを見たメラニーが、“2人にはそんな資格がない” と感じ、再び児童相談所に通報する。結果的に、ケルシーは、先の教師が強制的に引き取りに来て、警察に連れて行かれる。それから11ヶ月後、グループホームで辛い毎日を送っていたケルシーに朗報がもたらされる。新しい引き取り手が見つかったのだ。ケルシーが恐る恐る会いに行くと、それはベンとアランだった。映画は、非常にまともな状態で大学1年生になったケルシーが、2人に送られて大学寮に入るところで終わる。

チャンドラー・カンタベリーは1998年12月15日生まれ。映画の公開が2011年3月なので、2010年の12月以前の撮影だとすれば、撮影時11歳となる。しかし、Young Artist Awardsにノミネートされた時は、「10歳以下の主演」の部なので、撮影はもっと前なのかも知れない。なら、映画の中でも12歳ではなく10歳の設定にすればいいのにと思う。なお、この時の受賞は、『ティモシーの小さな奇跡』のCJ・アダムス。個人的には、チャンドラーの方が上手だったと思うが… このサイトでのチャンドラーの紹介は、これで5本目。手元に残っているのは。実話に基づいた『Little Red Wagon(リトル・レッド・ワゴン/ホームレスの子供たちを救おう!)』(2012)のみ。


あらすじ

2人の20代後半の男性が、蝶ネクタイにチョッキというレストランのボーイのような上半身に半ズボンという奇妙な出で立ちで、墓地の道路に立っている。2人の間には、「無料/バレーパーキング/哀悼の意を表します」と書いた立て看板が置いてある。バレーパーキングと書いてあるということは、この2人が、一時鍵と車を預かって安全な場所に駐車し、葬儀が終わったら車を返すことを意味する。いつも客があるとは限らないので、2人は看板を持ってあちこち歩き回って客を探す。幸い、1台の車〔恐らくBMW330CiカブリオレMスポーツ〕が停まり、鍵を渡して葬儀に行く(1枚目の写真、矢印)。2人は、ハイタッチをすると、ベンは看板を後部席に置き、アランが運転席に乗り込む(2枚目の写真、矢印は看板)。向かった先は駐車場ではなく、顔馴染みの盗難車を買ってくれるガレージ屋。親爺は6000ドルを提示し、2人は8500ドルを要求、親爺の次の提示7000ドル〔2005年秋の相場で約80万円〕で2人はOKする。ベンはすぐに現金を数える(3枚目の写真、矢印)。盗難車の所有者が車両保険に入っていれば損害はカバーされるだろうが、悪質な行為であることに変わりはない〔2人は、いつもこの姿で、市内でバレーパーキング詐欺を働いている。だから、被害者からの通報で、すぐに逮捕されると思うのだが…〕
  
  
  

2人が戻ってくると、2人が所有する貸家の借り主が荷物を満載したハッチバック車で乗り付け、荷物を敷地に下ろしている。借り主は40歳過ぎのおばさん。12歳の少年も一緒なので、母子家庭だ。2人を見た12歳のケルシーは、「学校行ったけど、すごく近かった」と話しかける(1枚目の写真、矢印)。この母親は、かなりずるい人間で、人々の同情を誘うよう、ルイジアナから引っ越してきたことにし、息子にも学校でそう言わせている〔この映画の公開は2011年だが、映画の描いているのは、恐らく2005年の9月以降の同年内であろう。2005年8月末のハリケーン・カトリーナは、ルイジアナ州を中心に死者1836名という大災害をもたらしたが、それに合わせ、FEMA(大災害に対応する政府機関)が支援に乗り出した。母は、この惨事を引越しの理由にしている〕。だから、母が2人に会ってまず言ったことは、FEMAからの援助金が少なく、今 手持ちが2000ドルしかなく、仕事も見つかっていないので、全額払いたいが余裕がないと言い訳する〔念を押すが、彼女はルイジアナから引っ越したわけはないので、FEMAとも無関係〕。2人は、相談し、月額1000ドル〔11万5000円〕という安値で1軒を貸すことに同意する〔因みに、この母親は、後でコンピューの使い方も知らないのに、事務職に拘って面接をすべて失敗する。そこで生ずる疑問は、①なぜ、自分の能力に見合った非技能職に就こうとしないのか? ②別れた亭主からもらえるはずの、息子の養育費はどうなっているのか? など〕。その後、2人は、いつも行きつけのウィグルズ・ワッフルズのファーストフード店に行く。親しい店員のメラニーは、ベンの横に座ると、オレンジジュースを注ぐ(2枚目の写真)。そして、「今日の詐欺はどうだった?」とか、「お年寄りの財布をひったくった方が早いのに」なんて言うので、彼女は、2人を知り尽くしていることが分かる。それに、対し、ベンは、「俺達が犯罪者に見えるか? だから、成功するんだ」と答える。別な日、2人は、また墓地でバレーパーキングの詐欺をやっている。前に乗り付けたのはメルセデスのEクラス。そこに乗っていなのは、ベンのかつてのガールフレンドのアマンダだったが、今や歌手で有名人のためサングラスをはめていてお互いに気付かない。いつも通り車を盗むと、中にアマンダとベンが一緒に撮った写真がCDケースに入っていて、誰の車を盗んだかようやく気付く。その直後、パトカーに停車を命じられる。理由はスクール・ゾーンで25マイル〔40キロ〕制限のところを40〔64〕で走っていたためだが、2人は、そうと分かるまで真っ青。車の登録証がアマンダなので、盗難を疑われるが、写真入りのCDケースを見せると(3枚目の写真、矢印)、罰金を免除され、警告だけで許してもらえた。その後、2人はアマンダの家に車を返しに行き、泥棒と罵られるが、曲りなりにも返したことになるので、それ以上大事には至らない。ここまでで映画開始から12分。この映画の評で、最初の15分で判断しないで欲しいと書いてあるのは、この詐欺が映画の主題ではないからだ。映画は、ケルシーと友達になる2人が、こんなひどい人間だと強調するため、最初の12分を割いている。
  
  
  

2人が、家の前のガーデンチェアで紅茶を飲んでいると、ケルシーが生垣の後ろから2人の方を覗いている。先に気付いたのがアランで、「やあ」といった感じで手を上げる。ケルシー:「やあ」。ベン:「紅茶、欲しいか?」。「いらない」。アラン:「生垣から出てきたらどうだ?」。ベン:「何を言うんだ。きっと、シラミ持ちだぞ」。アラン:「学校に行かなくいいのか?」。「今日は行かないんだ」。「いいか、学校でいい成績が取りたかったら、卒業するまで、毎日通わないと」。「あんたたち、いつ卒業したの?」。2人は言葉を濁す〔2人は、高校も卒業していない〕。ベン:「とにかく、学校に行くんだ」。アラン:「仕事のためだ」(1枚目の写真)。ケルシーの存在がうるさくなったベンは、「さてと、仕事にいかないと」と言って立ち上がる。アランも一緒だ。ケルシーは、「何するの? 一緒に仕事できない? ソーダ欲しいから お金がいるんだ」と頼むが、ベンは、「君のママはお気に召さないじゃないかな」と言うと、「気にしないよ」という返事は無視し、ケルシーの前でバタンとドアを閉める(2枚目の写真)。その日、ケルシーの母は地元の小さな会社の採用面接に行く。「あなたのWPM〔一分あたりの入力文字数〕は?」と訊かれのが、意味が分からない。説明されると、「30、35」〔タイピストの平均は216〕と答える。「最新のMac OS-Xは使えますか?」。「古いバージョンでしたら」〔この答えに意味はない。彼女には、Mac OS-Xの意味が分からない〕。「Excelは?」。「いいえ」。「Quicken〔財務管理ツール〕は?」。無回答。かくして、母は、タイピストとして役には立たないし、コンピュータは何一つ扱えないことが露呈し、不採用となる。
  
  

別な日、2人が小学校の狭いグランドのフェンスの前を歩いていると、ケルシーが、頭一つ大きな子に顔を殴られ、痛くて倒れてしまうのを見る。アランは、「もう十分だろ。失せろ」と注意する(1枚目の写真、矢印は殴られた左目を押えている手)。ケルシーが廊下のロッカーを開けようとしていると、教室から教師が出てきて、「何してる?」と訊く。振り向いたケルシーの左目は黒くなりかけ(2枚目の写真、矢印)、口の横から出血している。教師(5年生の社会科担当)は、ケルシーを、誰もいない教室に呼び入れる。「事故です」。「君は、転入生だったな?」。「はい」。「前は、どこの学校にいた? ルーザー・バーバンクか?」〔ロケ地はカリフォルニア州バーバンク〕。「いいえ、ルイジアナです。引っ越してきたんです」(3枚目の写真)。「ハリケーンの後か? 怖かったろうな」。「ええ」〔母に命じられて嘘をついているので、ケルシーも辛い〕。「君には目を離さないようにしておこう。もし、誰かが君を虐めたら、罰してやる。分かったな?」。
  
  
  

ケルシーが帰宅して、1人でアイスクリームを食べていると、そこに、また面接に失敗した母が帰ってくる。「やあ、ママ。面接どうだった?」。「同じよ」(1枚目の写真)。そして、ケルシーの黒目に気付く。「その顔、どうしたの?」。「殴られた」(2枚目の写真)。「見れば分かる。ママに見せて」。「カッコいいでしょ」。「まさか、ケルシー! カッコよくなんかないわ! 誰が殴ったの?」。「学校の友達の一人。追いかけっこしてた。事故だよ」〔教師はすぐピンときたが、母は自分のことで手一杯で「事故」を信じてしまう〕。「氷で冷やさないと」。「そんなのないよ」。母は、ケルシーが食べていたアイスクリームの容器を目に押し当て、「当ててなさい」と言うと、「宿題をしてきて」と命じる。ケルシーはそのままの姿勢で立ち上がると(3枚目の写真)、自分の部屋に行く。母は、求人欄を見始める。一方、ウィグルズ・ワッフルズの店では、バレーパーキングの詐欺中に、スピード違反で止められ、冷やりとしたことを話し、メラニーからは、「今に刑務所行きよ。よく、そんな生き方できるわね」と批判される。さらに、「いつまでも泥棒なんか続けられないわ。学校に戻って、仕事見つけなさいよ」とも〔高校を出ていなかった〕
  
  
  

ケルシーが、ランドリーバスケットに母の服を入れてドアから入る〔状況は不明〕。すると、直ちに批判の声が聞こえる。「お前、私の服に何したの? 干してこいと言ったでしょ」。「間違えて、縮んじゃった」。「そう言うと思った、このくそったれ〔Goddammit〕のケルシー!」〔Goddammitは、女性が自分の息子の対して使うべき言葉ではない。この一言で、この女性の本性が分かる〕。「言われた通りにしただけじゃないか!」〔いったい ケルシーは何を命じられたのだろう? 状況が分からないので、判断のしようがない→不味い演出〕。母は、もう一度、「くそったれ」と罵り、ここでドアを開け、ランドリーバスケットを持って姿を見せる。そして、ドアを振り返ると、「洗濯バサミを持ってきなさい、この小悪魔!」と怒鳴り、「大事なブラウスをダメにして」と言いながら、干し始める(1枚目の写真、矢印)〔縮んで使い物にならなくなったのに、なぜ干す?〕。そこに、ケルシーが洗濯バサミの籠を持ってきて、「ごめんね、ママ」と謝ると、「お前の “ごめん” なんか聞きたくない。格安品の洋服ダンスでもいいから欲しかった。誰かさんがソーダに使うお金があれば、ちゃんとした面接用の服が用意できたのに」〔面接に落ちるのは、服のせいではなく、自分の能力を超えた職に就こうとするから〕。そして、さらに、「このバカ」と吐き捨てるように言い、これにはケルシーも反撥する。「謝ったじゃないか」。「家に入ってなさい。お前の顔なんか見たくもない!」。この愚かで自分勝手な母が、正面を向くと、大家の2人がガーデンチェアに座って、呆れた顔でじっと見ている(2枚目の写真)。母は、急に取り繕い始めるが、言葉が出て来ない。アランは見限って席を立って家に入ってしまう。
  
  

ベンとアランは、盗難車を買ってくれるガレージ屋を招いて大量のスイカでもてなしている(1枚目の写真、矢印)〔スイカの実を抉(えぐ)り出した中に、テキーラを入れてある〕。そこに、まず、メラニーがやって来て、次いで、ケルシーが、「やあ」と言って平然と割り込んでくる(2枚目の写真)。メラニー:「誰なの?」。ケルシーは自分で名乗る。アランは、「ケルシー、姉さんのメラニーだ」と紹介する〔姉なので、泥棒や学歴もことも知っていた〕。そして、今度は、ケルシーに、「ベンは知ってるな。こっちは、お偉いさん… ボスだ」と紹介する。メラニー:「で ケルシー、どうしたの?」。「誰か、店に連れて行ってもらえない? “Hungry-Man”〔冷凍食品メーカーの名前〕を使い尽くして、食べる物がなくなっちゃったから」〔如何にひどい母親かが、ここでも分かる〕。ベン:「ママはどこだ?」。「知らない」。「でも、お金ならあるよ。乗せてくれる代わりにソーダをおごるから」。同情したメラニーは、「代わりにステーキ食べに行かない?」と訊く。アランがOKしろとサインしたので、ケルシーは、「いいよ」と答える。「ソーダはもらうわよ」。「選んでよ。いろいろあるから。おいでよ」。メラニーは、ケルシーの後について家に入って行く。「僕ならスクアート〔グレープフルーツ味の炭酸飲料〕とルートビア〔アルコールを含まない炭酸飲料〕を混ぜるよ。スクアート・ビアって呼んでる」。「スクアートだけにするわ」。外では、“ボス” がスイカ半割に入ったテキーラをガブ飲みする。既に、かなりの量のテキーラを飲んでいたので、そのまま仰向けにぶっ倒れてしまう。炭酸飲料を取ってきた2人も、一緒になって具合を見る(3枚目の写真)。ケルシーが頼まれてサイン・ペンを取りに行っている間に、メラニーは、ケルシーの母が如何に何もしていないかを2人に話し〔まるで、ケルシーが1人で暮らしているような状態〕、公的機関に相談すべきだと言うが、ベンは、口を出すべきじゃないと否定。それでも、メラニーは、「私は真面目なの。あれは、ひど過ぎる。育児放棄よ。何とかしないと」と言い、アランは、一応、「何とかするよ」と答える。
  
  
  

その日の夜、ケルシーが冷蔵庫を開けて炭酸飲料の缶を開けて飲んでいると、電子レンジが加熱を終えた音が聞こえたので、缶を元に戻す(1枚目の写真)。そして、今日、買ってきたものを食べようと、レンジの扉を開けると、そこに母が帰ってくる。「ママ、きれいに掃除したよ」。「そう。夕飯… 何かブツブツ言ってなかった?」〔掃除に対する感謝は一言もない/ケルシーが食べ物について何度も訴えたことすら頭にない〕。「自分でやったよ。ソーダ欲しい?」。「出かけないと」。「家にいてよ」。「いいこと、ママにはママの人生があるの」(2枚目の写真)「お前は10時にベッドに行きなさい。聞こえた? 聞こえたの、ケルシー?」(3枚目の写真)。ケルシーは返事などせず、頷いただけ。「じゃあ、朝会いましょ」。ケルシーはレンジ食を食べ始める。栄養バランスは最悪だ。それにしても、40過ぎのブスのオバンが、夜の街に何の用があるのだろう? 面接の失敗のウサ晴らしに酔っ払うのだろうか?
  
  
  

カリフォルニア州の児童福祉事務所からメラニーが出てくる。係員は、すぐにケルシーの担任に電話をかける。そして、「近隣の住民から育児放棄の指摘があったので、母親と話してもらえないか? もし、ひどいようなら、電話してくれ。保護する」と依頼する。ケルシーの属する5年生の社会科の教師に電話をかけるということは、①担任という制度がない、②学校に福祉担当がいない、③この2人は親友で何でも頼める、の何れかの理由によるものだと思うが、詳しくは分からない。教師が教えてもらった住所は、ベンとアランの住所〔ケルシーの借家は、敷地内に建っている〕。教師は、「もしもし、誰かいかせんか?」と声をかける。相手が警官でないと分かると、2人はにこやかに出て行く。そして、教師が、ケルシーの母に用があると言うと、隣に建っている家だと教える。教師が、メラニーという女性からの通報だと話すと、アランは自分の姉で、ここにはいないと答える。そして、育児放棄と思うかという問いに対して(1枚目の写真)、アランは、放棄とは思わないが、ケルシーの母はほとんど面倒を見ていないと言い、ベンは、メラニーの言葉として 食べ物もなかったと話す。「では、あなた方の印象では、虐待とまではいかなくて、最優秀母親賞には相応しくない程度だと?」。この教師、ケルシーの家がすぐ横にあるのにノックもせずに、一度も中に入ったことのない隣人の話しだけ聞いて満足して帰るとは、実にいい加減だ。2人はすぐにウィグルズ・ワッフルズに行くと、勝手な行動をする前に相談しろと抗議する。メラニーは、教師が名刺を置いて帰ったと聞くと、逆に、そのずさんな対応に呆れる。ベンは、原因の一端は、2人の育ち方が最低だったため、放棄など当たり前だと思ってしまうこと、(2枚目の写真)、そして、もう一端はメラニーの過剰反応にあると言う。2人が頼りにならないと思ったメラニーは、直接ケルシーと話そうと、直接家に行く。そして、ドアのところでケルシーを呼ぶが、中には誰もいない。メラニーが家の中を覗いていると、そこに母親が来る〔日中なのに普段着なので、面接をあきらめたか?〕。「何かご用?」。「兄のアランを捜してるの」。「私の窓を覗いて?」。「もう行くわ」。「2人はここじゃないの。仕事に出てるんだと思うわ」。「私が口を出すべきじゃないのは知ってるけど、あんたがここでどう暮らし、どうケルシーを扱ってるかは知ってる。家の中を見たもの。到底、受け入れられないわ」。「あんたの知ったことじゃない」(3枚目の写真)。「そうかしら? 私、ケルシーと話したから、ここで何が起きてて、それは失業中でも許されないことだって知ってるの。分かった?」。母は、メラニーが制服を着ているので、「あんた、その車〔BMW〕、ウェイトレスの給料で買ったの、それとも、チップ」と、メラニーを蔑むように訊く〔ウェイトレスの方が、“無能なのに自分を客観視できずに失職中の女” より百倍は偉い〕。メラニーが、「車は プレゼントよ」と言うと、「このクソアマ!」と罵る〔母の方が、余程、“クソアマ” だ〕
  
  
  

夜、ケルシーがTVを見ながら、スナック菓子を食べていると(1枚目の写真、矢印は、溜まったゴミ)、そこに母が帰ってくる。ケルシーは何も言わずに立ち上がるとTVを消して自分の部屋にいく。母は、タバコをくわえるが、どこにも火を点けるものがないので、怒ってバッグを床に投げ捨てる。そして、郵便物を乱雑に開けると、それは児童福祉事務所からの苦情通達だった。怒った母は、テーブルに投げつける(2枚目の写真、矢印は手紙)。翌日も、母は、懲りることなく、自分には出来ない仕事の面接に出かける。「エクセルは?」。「できません」。「ファイリング〔スキャナーの使用が前提〕は?」。沈黙。「事務仕事に有用な技能を何か持っていますか?」。母は、遂に切れる。「何でもいいから、仕事をさせたらどうなのよ! 私は、仕事がしたいの! 仕事が! 何でもいいから、させなさい! 私は何にも知らない。そこに そりくり反って、それにイチャモンつけやがって… このクソが… お願い助けて」〔何度も思うが、なぜ事務職に拘るのだろう?〕
  
  

一方、2人が外でチェスをやっていると、そこに、ケルシーが、「やあ」と寄って来て、「これ、ママが渡して欲しいって」と、ベンに紙を渡す〔内容は不明〕。そして、「何してるの?」と訊く〔チェスの駒の形をしていない〕。ベン:「チェスだ」。アラン:「やったことあるか?」。「時々、おじいちゃんと」。「どこに住んでる?」(1枚目の写真)。「天国」。2人の動きが一瞬止まる。ケルシー:「お2人さん、もっと巧くやらなくちゃ。ごちゃまぜじゃない」。ベン:「勝手に言ってろ〔Whatever you say〕、このボビー・フィッシャー〔伝説的なチェスの天才〕」。アラン:「賭けたことはないのか? 刺激がないと味気ないぞ」。「賭けるものあるよ」。「ソーダなら遠慮するよ」。「ペントハウスが7冊ある。気に入ると思うよ」(2枚目の写真)。ベン:「残念だが、俺達もうそろそろ止めないと」。アラン:「仕事のために早起きするから」。「車を盗むの?」(3枚目の写真)。2人は凍りつく。「いつも、いろんな車が停まってるよね。みんな2人が盗んだの?」。アラン:「ややこしいんだ」。「盗むことが?」。ベン:「違う、そうじゃない。まあ、10歳のガキならそう思うだろうがな」。「僕、12だよ」。ベンは急きょ思いついた嘘をケルシーに話して聞かせる。「トーランス〔バーバンクの約40キロ南〕で中古車のディーラーをやってる伯父が、車の状態をテストするために貸してくれるんだ。俺のパパの弟だ」。この言葉で、ケルシーが話題を変える。「僕の、パパは新しい家族と一緒だよ。もう、僕らは要らないって…」〔あの、エキセントリックな母を見限ったのは分かるが、なぜケルシーまで?〕
  
  
  

仕事が見つからなくて切羽詰った母は、前の夫に電話をかけ、少しの間、ケルシーを預かってくれないかと頼む。だが、夫は、無情にも、話しの途中で電話を切る〔なぜ、ケルシーが嫌いなのだろう?〕。お金が全くなくなった母は、ベンとアランに頼み込もうと、ドアをノックする。しかし、2人は自動車詐欺に出かけて不在だった。正面のドアには鍵が掛かっていたが、横のドアは無施錠で、彼女は、勝手に大家の家に入って行く。そして、キッチンを通り越して、奥にある部屋まで入り込み、隣の小部屋に誰もいないことを確かめる(1枚目の写真、矢印は金庫)。そして、目をつけた金庫を取り出して蓋を開けた時、2人が帰ってきた音が聞こえ、急いで元に戻す。2人は思った以上に早く奥まで来たので、部屋にいるところを見つかってしまう。アラン:「何か用事ですか?」(2枚目の写真)。彼女は、最初、しどろもどろだったが、「卵を借りられないかと思って、ドアをノックしたら、すぐに開いたので、ここにいらっしゃるとは知らずに入ってきちゃったの」と、苦しい言い訳をする〔卵が欲しいならキッチンにいればいいのに、なぜ、そこを通り過ぎて奥まで入り込んだ?〕。そして、逃げるように帰ろうとすると、「卵は欲しくないのですか?」と訊かれる始末。アランが取りに行っている間に、ベンは、「ちょうど良かった… あなたの借家料の小切手の現金化が拒否されました。銀行の話では、口座はもう閉じられているそうです」と苦情を言う。母は、「夫がいた時の口座番号を書いてしまったのね」と、これも苦しい言い訳〔離婚したのは10年前〕。そして、こともあろうに、「ひょっとして、他の方法で埋め合わせが…」と言いながら、ベンの胸に手を伸ばす〔妾になるか、体を売ろうとした〕。2人は誤解がないよう、明白に拒絶。「後で、郵便受けに入れておいて下さい」。口座番号は間違っておらず、お金は底を突いているので、家に戻った母は茫然と考えに浸る。そして、翌朝、母はハッチバック車にエンジンをかける。午後になり、2人が戻ってくると、ガレージから変な音がする。シャッターを上げると、中にはハッチバック車がエンジンをかけたまま停まっていて、強烈な排気ガスの臭いがする。2人が鼻を押えて中に入ると、車の中ではケルシーの母が死んでいた(3枚目の写真、矢印)。ここから、映画の本編が始まると言っていい。
  
  
  

母の手には、1枚のメモが握られていた。「ケルシー、キッチンの私の財布に、46ドル入ってる。ママは…」。ベンは、恐らくすぐに警察に届けようとしたのだろうが、それを止めたのはアランだった。「手袋を取って」。「なぜ?」。「ケルシーがグループホームに送られちゃう」。2人は、母が借りていた家に入ると、手袋をはめ、子供がいた痕跡を徹底的に取り除く。そして、警察を呼び、1ヶ月前、家を借りた、“単身で家族のいない〔Single. No family〕” 女性が自殺したと報告する(1枚目の写真、矢印は母の遺体)。その後、2人は、学校までケルシーを迎えに行く。早退けさせられて出て来たケルシーは、嬉しそうに走り寄る(2枚目の写真)。「どうやって、早引けさせたの?」。アラン:「君の叔父だって言ったんだ」。「すごいや」。ベン:「何か食いたいか?」。「もちろん」(3枚目の写真)。2人は、ケルシーを車に乗せると、ウィグルズ・ワッフルズまで連れて行く。
  
  
  

3人が入って行くと、レジにいたメラニーは、「ケルシー、どうしたの?」と訊く。「学校を早引けさせてくれた。すごくクールだよね」。ベンはケルシーをテーブルに連れていき、アランは姉に説明するためレジに残る。ケルシー:「ここに来たの初めてだよ」。「カッコいいだろ。俺達は、いつも来てる」。「叔父さんの自動車をテストしてない時?」。その頃、ケルシーの母の死を知らされたメラニーは驚いている(1枚目の写真、矢印)。アランが席に加わると、メラニーがケルシーの横に座り、「何でも欲しい物 食べていいのよ」と優しく言う。ケルシーが注文したのは、チョコチップ入りワッフル、魚のフライ、レッドブル〔清涼飲料水〕。メラニーが去ると、2人は真面目な顔になる。アラン:「ケルシー、僕らは… どうしても… これは、とても…」。後が続かない。より冷静なベンが引き取る。「昔、農場に住んでいて、ケルシーと同じ年頃の時、14歳の兄が納屋から落ちて死んだ。屋根の上に登らなくても、時間の潰し方は何百通りもあったのに。さらに、こんな恐ろしいことが、よりにもよって、なぜ善人に起きなくちゃならなかったのか。いいか? 俺達 誰でも… 人生の軛を持ってる。意味が分かるか? それは、貧しさかもしれん。癌にかかるとか、離婚するとか、あるいは、兄を失うか、母を失うか… 分かるか、ケルシー? どれも辛いことだ。問題は、その軛にぶち当たった時、どうするかだ。まだ用意ができていないかもしれん。だから、聞くのは辛いだろう。いいか?」(2枚目の写真)〔映画の題名の入った重要なメッセージだ〕。ケルシーは、心配しながら、「いいよ」と答える。「君のママが、今日、亡くなった」。しばらく会話が途絶える。「気の毒だが…」。ケルシーの目から涙が溢れ出る(3枚目の写真)。
  
  
  

2人の家に連れて行かれたケルシーは、寂しくなって、アランに抱きつく(1枚目の写真)。アランは、ケルシーを “弟” のように抱きしめる。その後、“ソファの端に座ったアランの腰を枕に寝てしまったケルシー” を見たベンは、アランを家の外に呼び出す。アラン:「何だ?」。ベン:「どうする気だ?」。「このまま寝かせておこう。あの子には最悪の日だった」。「それは いいが、今後、どうする気だ?」。「明日は、マットレスと布団〔futon〕でも買いにいかないと」。ベンは、こうしたアランの “里親” 的な考え方が気にくわない。一方のアランは、最初から警察に隠していたように、ケルシーを守ろうとしている。アラン:「いいか、僕らは、一段上がる時が来たんじゃないか? これがいい機会になると思ってる」。ベン:「魚一匹飼ったことがないんだぞ! あの子の父親はどうなんだ? 彼には義務が…」。「そうかもしれんが、資格がない」。「血がつながってる。ゼロよりはマシだ」(2枚目の写真)。2人が大声で怒鳴りあっていたので、ケルシーの目が覚め、内容が自分に係わることなので、耳を澄ましていた。そして、父親の話になったので、姿を見せる。「パパのところには行かない! 知りもしないのに。小さい時に別れてから、見たこともない。僕なんか欲しくない。そう言ったんだ。僕、行かないから」。ベン:「もし、行かされたら?」。「逃げ出す」。「そう簡単には行かないぞ」。「僕、2人みたいに、車を盗むから。いいでしょ? お願い、行かせないで」(3枚目の写真)「約束する?」。アランは、「分かった。約束する。だから、もうソファに戻れ」と、ケルシーを家に戻す。
  
  
  

しかし、ベンは、アランが勝手に約束したことで、頭に来ている。「ここに いていいなんて約束するなんて」。「あの子の顔を見たろ?」〔ケルシーはすがるような顔だったが、ベンはそれを見ていない〕。「あいつは12だ。乗り越えられる」。「よく言えるな?」。「俺達は盗む! 好きなように暮らす! ガキなんか育てられん! 俺たちの生き方じゃない!」。「あの子は1人ぼっちだ。助け合わないと」。「あいつか、俺か?」。「もう決めた」。「そうか、このクソ野郎!」。そう言うと、ベンは出て行く(1枚目の写真、矢印)。 泊まる当てのないベンは、ガレージ屋の親爺の店に行き、「寝る場所を探してる」と頼む。親爺はキーを放って寄こし、「ガレージのカムリを使え」と言う。さらに、「どうした? アランは?」と心配する。「ケンカしたんだ。アランは、ケルシーを置きたがった」。「一晩だけか?」。「母親が、この世からバイバイしちまって〔The mother punched her own ticket〕、アランはこれまでのやり方を変えるなんて言い出したもんで、『ノー』って言ってやったんだ」。「いいか、あんたらは幸運だった。ここに来て10年、ずっと2人でやってきた。あんたとアランで」。「だから?」。「だから、1人になったら、あんたは役立たずだ。稼ぎはゼロだからな」。翌日、車から出て、町にくり出したベンは、“よろよろと歩いていく老女” からバッグをひったくろうとするが、どうしてもできない。ダストボックスからガラス器を取り出し、紙の箱に入れて落として割り、それを持ってお金のありそうな女性にぶつかり、賠償を求めるが、「レシートを見せて」、と言われてしまう。一方、アランは姉に相談に行く。そして、ベンが出て行ったと話す。ケルシーについては、母親の自殺を含め、警察にはケルシーの存在を隠し通したと説明する。姉の反応は意外で、ケルシーの保護は姉を想ってやったのに、「あんたは、私じゃなく、ベンを取らないと」と、関係の修復を求める。次のシーンで、アランはケルシーと一緒に歩いている。ケルシー:「僕のこと、怒ってる?」。「いいや」。「どうして?」(2枚目の写真)「ベンは、どこなの? 戻ってくる?」。「分からない」。「僕、いていい?」。「ああ」。「最高」。夜になり、ベンが歩いていると、ホームレスの中年女性が、「タバコ、ありません?」と声をかける。薄汚れて苦労した風貌を見たベンは、財布からお札を全部出して渡す〔といっても、恐らく17ドル〕。感謝する女性に向かって、ベンは両手を差し出す。ハグしようという合図だ。彼は、自分より縦も横も大きいホームレスを抱きしめる〔すごい悪臭だったことが後で分かる〕。女性が、こんなことまでされ、感動して泣き出したのを見て、ベンの心の中でスイッチが切り替わる。
  
  
  

その夜、アランはベンのことが心配で、家の外にいる。ケルシーがお休みを言って家に入ると、アランは、家の前の歩道の縁に座り、夜がふけると横になって寝る。そして、そのまま朝を迎え、アランが再び座っていると、そこにベンがやって来る。アランは立ち上がり、ベンと向き合う(1枚目の写真)。アラン:「何してた?」。ベン:「何も」。「どこにいた?」。返事はない。「こんなこと、しちゃダメだ。僕を放り出して行くなんて」。「で、俺達、あのチビを育てるのか? 養うのか? 泣いたり、血を流すのを止めたり、宿題の面倒を見るのか? そして、好きになるのか? なぜだ?」。「なぜかは、知ってるだろ」。「もし、守ることができなかったら? あの子が傷付いたら? 俺達が傷付けたら? 俺達には無理だ」。泣き出したベンを、アランは抱きしめる。「ひどい、臭いだな。ルンペンみたいだ」。「ホームレスにハグしたからな。すごく悲しそうだったから、ハグしなきゃと思って」。2人は、家に入る。翌日、3人は、喪服を着て墓地に向かい、ケルシーは埋葬前の母の棺に花を添える(2枚目の写真)。家に戻っても、ケルシーは、ソファに座ったまま涙を浮かべている(3枚目の写真)。
  
  
  

ベンは、2人分の紅茶を作り、ケルシーの部屋に持って行く。ケルシーは、前も断ったが、今度も、「好きじゃない」と断る(1枚目の写真、矢印は紅茶のカップ)。ベンは、「紅茶は文明人の飲物だ。紅茶を飲む人は、学術の中心にいる」と言い、飲むよう強く勧める。これが、一緒に住むことの条件なのかもしれない。「一度も飲んだことないよ」。「なら、覚えるんだ」。「なぜ?」。「ほら、取って」(2枚目の写真)。ケルシーはカップを受け取る。「飲むんだ」。少し口に含んだケルシーは、顔をしかめる。「信じられん。ほら、少しは気に入ったろ」。ケルシーは首を振り続ける。
  
  

学校が終り、ケルシーが出てくると、2人が待っていて、クラクションを鳴らし、「行くぞ」と言う。2人が乗ってきたのは、黄色の冴えない古い小型車。「こんなのに乗るの?」。「何だ?」。「だって、誰かに見られたら、後でボロクソに言われる」。「乗るんだ。それに、『クソ』なんて言葉使うな」。「これしか見つからなかったんだ。4時までに医者に連れて行かないと」。「医者?」。「そうだ。予防接種だ」。離れた場所から、その様子を、社会科の教師が変な顔で見ている。日曜になり、3人はウィグルズ・ワッフルズに嬉しそうに入って来る(1枚目の写真)。メラニから「調子はどう」と訊かれたケルシーは、「良かったよ。スプラッシュ・マウンテンに行ったんだ」と答える〔スプラッシュ・マウンテンがあるディズニーランド・リゾートは、50キロほど南東にある〕。ベン:「今日は、とても教育的な実地見学をしてきた」。ケルシー:「そうだよ。スプラッシュ・マウンテン〔急流下りのアトラクション〕で、アランは吐いちゃったんだ」。メラニーは、2人と話す必要ありと思い、ケルシーにワッフル作りを見に行かせる。「あんた達、いったい何やってるのよ? こんなことしても、何の解決にもならない。罪滅ぼしにもならない。ケルシーを巻き添えにしてるだけ。そのうち、あの子を ひどく傷付けるか、あんた達みたいな人間にしちゃうかどっちかよ」。怒ったベンは、「もう十分だ。ケルシー、行くぞ!」(2枚目の写真)と呼び付け、店を出て行く。夜遅くになり、店が閉まった後、メラニーはどこかに電話する(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、3人が家に戻って来ると、そこに社会科の教師が車で乗りつけ、「ケルシー、車に乗れ」と命じる。「何で?」。教師は、ケルシーの首根っこを持ち、無理矢理 車に乗せようとする(1枚目の写真)。2人は、「何する気だ?!」。「おい、待て、連れて行くな!」。「そんな権利はないぞ!」と口々に言うが、教師は、「『権利』? 小児誘拐が権利なのか?」と指摘する。ベンは、「彼には誰もいない。家族もない。父親もいない。いるのは俺達だけだ!」と言うが、教師は、「母親が死んだから、自分達でやろうと思ったのか? 他に、誰も気に掛けたり、世話したりしないとでも?」。「俺達は、ケルシーの面倒をみてきただけだ」。「これから警察に連れて行く」。「やめろ!」。車の中で、ケルシーは、「2人は、ソファ・ベッドを買ってくれた。店で試して、僕が選んだんだ」(2枚目の写真)「それに、アランは、すぐに向かいの家に引っ越すとも言ってた。そしたら、僕の部屋も持てるって」と2人を擁護する。「いいか、確かに素敵だが、彼らはママじゃない」。「ママは僕を嫌ってた!」。「そんなことはない。君達は、ハリケーンで大変な目に遭ったんだ」。「僕、そこから来てない」。「何だと?」。「ママは、ニューオーリンズから来たと 僕に言わせたんだ。そう言えば、優しくしてもらえるからだって」。教師は車を停める。「いいか、君には理解できんかもしれないが、これが君にとって最良の道なんだ」。「2人は、僕を欲しがってる」。「彼らには、君の世話はできない」。「これまで、僕を欲しがってくれた人などいなかった。だけど、2人は欲しがってくれた!」。「それじゃ、不十分なんだ」。「十分だよ!!」(3枚目の写真)。そのあと、ケルシーは悲しそうな顔になり、「うまく行ってたのに」と呟く。そして、その先、2人と一緒に過せたであろう楽しい生活が、走馬灯のように、映像で示される。
  
  
  

教師は、そのままケルシーを警察に連れて行く。そして、「11ヶ月後」と表示される。ケルシーがやつれた暗い顔をして、児童相談所のテーブルに座っている(1枚目の写真)。係員が、「グループホームは大丈夫か?」と訊く。しばらくして、「湯が出るね」。「残念だ。君のような子供を守ることが我々の仕事なのに」。ケルシーは、心ここにあらずといった、絶望しきった顔。話が耳に入っているかどうかも疑わしい。「我々は、往々にして、すぐには目的を果たせない。これからは、もっと君に専念すると約束する。君には、しばらく滞在できる家族を見つけた。そこが養子にしてくれるかもしれない」(2枚目の写真)。ケルシーは、「そこに行けば、自分の部屋を持てる?」と訊く。「できるだけやってみよう〔We'll see what we can do〕。会ってみるか?」。ケルシーが廊下に出ると、そこにいたのはベンとアランだった。2人は正式に書類を提出し、適格と認められたのだ〔何の職業に就いたのだろう?〕。ケルシーは顔を綻ばせ、2人に寄って行く(3枚目の写真)。12歳のシーンはこれで終わる。
  
  
  

今度は、“何年後” とは表示されない。「南寮」と表示された建物の前に、大学1年生になったケルシーが、2人に車で送られて来る。「歯ブラシは持ったか?」。「うん、パパ、入れた」。パパが2人いるが、最後まで、2人が同性婚なのか、一緒に住んでいるだけなのかは分からない。荷物を全部持ったケルシーは、受付の前に行くと、「僕、ケルシー・マニロウ=ドゥエルマンです」と言う(写真、矢印)。マニロウはアランの姓、ドゥエルマンはベンの姓だ。2人は、「4年間、頑張れよ」とケルシーに声をかけると、「やったな」と言い合って去って行く。
  

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